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特別講演 「眼と糖尿病のよもやま話」

平成28年12月2日(金) 当院副院長・眼科部長である 塩谷 滝雄医師より特別講演がありました。

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今回の講演では、①糖尿病の歴史と人物 ②糖尿病合併症 ③糖尿病に伴う視覚障害の現状 ④糖尿病眼合併症(網膜症 黄斑浮腫 血管新生緑内障)⑤糖尿病管理と最近のトピックスについてのお話でした。

世界での糖尿病の歴史として、古代エジプトやインド、中国の古文書によると紀元前15世紀頃から存在していたと考えられており、ギリシャのカッパドキアのアレテウス(紀元30-90年)が初めて正確に記載した症状として、「デイアベテスは不思議な病気で、肉や手足が尿に溶け出してしまう、患者は絶えず水を作り出し、水道の蛇口から流れ出るようである。その症状が揃うと間もなく死んでしまう。」と言われていました。

日本での糖尿病の歴史として、糖尿病は、「消渇の病」とされていました。江戸中期「一本堂行全医言」に記載されていました。「胃が乾燥し、いくら水を飲んでも渇きが止まらず、いくら食べても飢餓が続く、尿は甘みがある等」の詳細な糖尿病の症状の記載がされていました。

1921年フランスやドイツなどで研究が進み、糖尿病という病気に関わる「インスリン」という血糖値を下げるホルモンが発見されました。糖尿病の病態解明がはじまりました。

糖尿病を患った歴史的人物として、藤原道長(966 ~ 1027)、明治天皇(1852~1912)、織田信長(1534~1582)、エジソン(1847~1931)、バッハ(1685~1750)などの人物がいたとされています。

藤原道長が糖尿病を患っていたと考えられる最も古い人物とされています。源氏物語の光源氏のモデルです。本人の日記『御堂関白記』や側近であった藤原実資の『小右記』などに記載されていました。40代から典型的な糖尿病の症状を発症したと言われており、50代となる頃、「近寄れど汝の顔よく見えず」というほど視力が低下し、62歳で背中の皮膚感染症から起きた敗血症で亡くなったと言われています。また、明治天皇が糖尿病を患っていたと明確な記録が残っている最も古い人物とされています。40代から肥満になり始め、40代後半から糖尿病を発症と言われています。糖尿病や慢性腎臓炎などで身体はボロボロとなり、59歳で糖尿病腎症による尿毒症で崩御とされています。

何故、血糖コントロールが必要なのでしょうか? 血糖が高いと、全身の血管が脆くなり詰まったりします。その結果、全身の合併症を引き起こすこととなります。

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糖尿病全身合併症として、様々なものがあります。目では、糖尿病網膜症・白内障・緑内障、脳では、動脈硬化・脳梗塞・糖尿病昏睡、呼吸器では、感染症・感冒肺炎・肺結核、心臓では、動脈硬化・心筋梗塞・狭心症、腎臓では、糖尿病性腎症・尿毒症、泌尿器では、インポテンツ・尿路感染症・膀胱炎・排尿障害、皮膚では、皮膚病・感染症、神経では、糖尿病神経障害、足では、虫・糖尿病性壊疽が合併してきます。糖尿病合併症の割合として、神経障害 11.8%、腎症 11.1%、網膜症 10.6%、足の壊疽 0.7%となっています。

糖尿病眼合併症として、糖尿病網膜症 30~60% 眼底出血を起こしたり、失明に至ることもあります。黄斑症 10~20% 視力低下、歪みが起こります。血管新生緑内障 3~5% 眼圧が高くなり、視野障害をきたし、失明に至ることもあります。これらの合併症は糖尿病に伴う失明の原因となります。その他の眼合併症として、白内障 20~60% 水晶体が白く濁り、視力障害をきたします。角膜障害 10~70% 角膜の表面が障害され、ドライアイなどが起こります。屈折・調節異常 2~8% 近視が進んだり、老眼が早く出ます。虚血製視神経症 0.2~0.5% 頻度は低いですが、高度の視力障害を残します。外眼筋麻痺 0.2~1.0% 眼球運動障害を起こします。

世界での糖尿病網膜症に伴う視覚障害の現状として、糖尿病患者さんの約3分の1に何らかの網膜症があり、さらにその約3分の1は何らかの視覚障害を起こしています。

本邦に於ける現状・推測は、国内の糖尿病患者数は約950万人あり、網膜症患者数は約300万人と予測されています。約100万人は視力に影響が出ている可能性があり、現状では、毎年約3,000人の方が失明しています。

なぜ糖尿病網膜症での視力障害が減ったのでしょうか? その理由として、内科と眼科の連携が良くなったこと。薬剤の進歩もあり血糖を適切にコントロール出来るようになってきた。血圧や脂質などのリスクファクターも含めたトータル管理の意識が上がった。眼科に於ける治療の進歩があげられます。

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代表的な糖尿病眼合併症として、糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫・血管新生緑内障があります。糖尿病網膜症は、血糖値が高い状態では血管に多くの負担がかかり、血管が脆くなったり血管が詰まる事により網膜に様々な変化が起こる病気です。糖尿病網膜症の病期は、網膜症なし・単純網膜症・増殖前網膜症・増殖網膜症と分類されます。

糖尿病網膜症の治療として、血糖コントロール(食事療法・運動療法・薬物療法)、血管強化薬、循環改善薬の投与があります。レーザー治療は、網膜症の進行阻止目的で行なわれますが、決して視機能の改善目的ではありません。

硝子体手術は、硝子体出血・網膜剥離・黄斑浮腫の治療として行なわれます。これは、視機能の改善が目的です。

糖尿病患者さんは、定期的な眼底検査を受けていただく必要があります。精密眼底検査の受診の目安は、網膜症がない人は、6~12ヶ月に1回、単純網膜症の人は、3~6ヶ月に1回、増殖前網膜症の人は、1~2ヶ月に1回、増殖網膜症の人は、2週間~1ヶ月に1回となっています。定期的な眼科受診をお勧めします。

糖尿病黄斑浮腫についてです。黄斑は眼底の中央にある部位のことで、視力に最も大切な場所です。黄斑症は、黄斑がむくんで視力障害を起こす疾患です。症状としては、視力障害・暗黒感・変視症です。黄斑症は網膜症の人に起きやすく、黄斑症のリスクは、単純網膜症の人は10%、増殖前網膜症の人は30%、増殖網膜症の人は70%となります。

黄斑浮腫の薬物治療として、抗VEGF 薬(眼内への注射)があります。これは、網膜内の毛細血管から血液成分が漏れ出すのを促すVEGFの働きを抑える薬剤を眼内に注射することで血管成分の漏れを抑制する治療法です。ステロイド薬(眼内・テノン嚢下への注射)する治療もあります。炎症を抑えたり血管から水分が漏れ出てきやすい状態を改善する治療法です。

硝子体注射による治療もあります。非常に針を用いて注射を行い、2、3秒で終わるため痛みはほとんどありません。治療後は、浮腫が改善され正常な状態に近い状態に成っています。黄斑浮腫のレーザー治療もあります。

黄斑浮腫の手術治療は、硝子体切除・吸引して、EGF等化学物資の除去をします。後部硝子体剥離し、黄斑への牽引の除去をします。内境界膜剥離をして、黄斑浮腫の早期改善をします。

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増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障についてです。緑内障の中で一番失明率が高い病気になります。

症状として、霧視・視力障害があります。所見としては、眼圧上昇(30~60mmHg以上)、角膜浮腫、虹彩ルベオーシス、隅角ルベオーシルです。

治療としては、①線維柱帯切除術で、房水を結膜下に流出させ、眼圧を下げる手術です。②チューブシャントで、インプラントを挿入し、房水を結膜下に排出させ眼圧を下げる手術となります。③毛様体光凝固術で、毛様体をレーザーで凝固し房水の産生を減らし、眼圧を下げる手術です。④抗VEGF抗体の投与をして、血管新生の増殖や成長を促す因子の働きを抑える薬剤を硝子体注射をする治療法です。

糖尿病網膜症の発症と進展リスクとして、糖尿病の罹病期間が長いこと・HbA1cが高値である・初診時に重篤な糖尿病網膜症を認めること・高血圧の合併がある・妊娠中であることになります。厳密な血糖コントロールで網膜症の発症を抑制することができます。HbA1cの値が高値になればなるほど、網膜症進行率が高くなってきます。

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糖尿病網膜症と脳卒中発症リスクは、網膜点状出血・硬性白斑があるだけで、発症リスクが2倍弱高くなリます。また、虚血による軟性白斑があれば、発症リスクが2倍強高くなってきます。

低血糖が高齢者の血糖コントロールの障害になってきます。高齢者は、重症低血糖が起こりやすく、低血糖は認知機能を障害し心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めることになります。低血糖が重症合併症を併発しやすい要因として、長期罹病、重症低血糖の既往、動脈硬化の進展、血糖コントロールの不良、自律神経障害の合併があります。そのため、高齢者では1回の低血糖でも極力避けるべきです。

血糖コントロールの目的は、合併症の発症を抑えるためです。糖尿病は決して怖い病気ではありません。上手に付き合えば何の問題もない病気です。食事はバランスよくとり、適度な運動をおこなっていき、引き続き良好な血糖コントロールが継続出来るよう頑張って下さい。

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